大澤 秋津 official blog

或る市民ランナーの内省録

2020年度 上半期の読書録 その①

 10年以上前、まったく面識のない浪人生が数学の青チャートを片手にやってきて「質問よろしいのでしょうか?」と突然声をかけてきました。

 丁重にお断りしようとしたら「どうして教えていただけないのですか!」と結構エモーショナルな抗議をされるので、「……いや、そもそも僕の担当教科は英語なんだけれども」と冷静にお伝えしました。声を上げて驚かれた後、顔を真っ赤にしながら繰り返される謝罪の言葉。

 よりによって、一体どうして僕のところに数学の質問がくるのか知りたくなって原因を聞いてみたら、「だって私、絶対に数学の先生だと思っていました!」力説

 その日の夜、当時担当していた中学生にこのエピソードを話したところ「私も最初は数学の先生だと思っていました!」という謎の賛同が多数

 

 何が根拠なのかは本人にはさっぱりわかりませんが、僕がよく受ける第一印象の誤解で非常に多いのは「コーヒーはブラック派」「読書家」です。

 この際なので全世界へ向けて宣言いたしますと、コーヒーは好きですが常にブラックで嗜む訳ではありません。むしろブラックであることへのこだわりはほとんどありません。TPOと気分によってかなりいい加減にブレまくります

 もう10年近くお世話になっている美容師の方は、未だにシャンプーの後「コーヒーはブラックでしたよね」と確認しようとした直後に慌てて思い出して訂正され(※僕はそのお店ではミルクも砂糖も入れていただいています)、その後「どうしてもブラック派に思えてしまうんです」「……よくあります」と二人で談笑するのが毎度の‟お約束”になりつつあります。

 

 もう一つの誤解の「読書家」についてですが、僕が読書家と言えるくらいに本を習慣的に読んでいたのは控えめに言っても小学校低学年までです。慣れ親しんだ木造の校舎の図書室が、高学年の時の新校舎設立で大きく無機質な空間に変わり、中学校の図書室の先生が小学校時代の方と比べるとあまり魅力的ではなかったことが本から離れていった原因の一つかと。

 僕が進んだ哲学科同学年実質30名程度で、学科自体重度の読書オタクとアニメオタクの巣窟みたいな独特の空気が強く(……最後まで馴染めませんでした)、マンモス校の中の特殊学級みたいな位置づけでした。文字通り活字中毒と類される人種も多い一方、教授陣の読書量はその比ですらなく、とにかく圧倒されました

 おそらく今でも僕は家族や一族の中で最も本を読まない人間で、おそらく哲学科にあってはほとんど本を読まなかった学生でもあるので、自分のことを一度も「読書家」と認識したことはありません

 

 ただ、どういう風の吹き回しなのかわかりませんが、今年に入って突如読書量が増えました。これまで前例のないことなので、覚えているうちにこの場を借りて備忘録でも作っておこうと思います。

 自分でまとめておいてなんですが、とてもカオスなラインナップです。嗜好性に脈絡も一貫性も皆無であることを最初にお断りさせていただきます。

 

1.村山由佳『海を抱く BAD KIDS』

 10年前くらいの夏に書店の文庫フェアで見つけて適当に読んで途中で放り出していたものを、今年になってちゃんと読んでみました。僕は他のメジャーな村山作品は一切読んでいませんし、正直最近のものは好きになれそうにないなぁという印象がありますが、この作品は結構好きです。そして気に入った分だけ、物足りなさも感じています。

 ‟海”‟波”尊厳死‟LGBTQ”など扱われている複数のテーマを、二人の中心人物の高校生の感性に沿ってそれぞれ更に掘り下げつつ関連させていけば、もっと深みが出て面白くなるのになぁ、と感じました。‟起承転結”の‟転”の途中で突然話がまとめに入ったような印象が残りました。

 

2.松本清張『点と線』

 名前と代表作は知っていても読んだことのない作家だったので、とりあえず一番有名な作品から着手してみることに。とても丁寧に推理が構築されている反面、捜査の進展が遅く停滞気味で途中ちょっともどかしくなりました。

 

3.松本清張『目の壁』

 今回一気にまとめて読んだ松本清張作品の中では、この作品が一番読んでいて楽しかった気がします。多分、展開とテンポが他の作品よりも速いことが原因かと。松本作品はとても読みやすいのですが、その分何か常に物足りなさを感じることも結構ありました。そして読んでいる最中は面白いけれど、読み終えた後の余韻はあまり残らない、そんな‟熱伝導率”の高さを特に強く感じた作品でした。

 

4.松本清張ゼロの焦点

 火曜サスペンス劇場などでお馴染みのラストの崖での告白シーンのオリジナルはこの作品だそうです。知らなかった。他の作品とは異なり、女性が主人公なのですが特にその心理描写に鋭い焦点が当たることもなく登場人物の経歴や時代背景に焦点が絞られることもなく、今回読んだ松本作品の中では一番印象に残りませんでした。

 

5.松本清張砂の器

 今回読んだ松本作品の中で、唯一僕がスリードの罠に引っかかった作品です。だって絶対‟あいつ”が犯人だと思うじゃん。総括すると松本作品は横溝正史作品と同様、そもそも映像向きの内容と文体なのかもしれない。

 

6.遠藤周作『海と毒薬』

 松本作品でやや消化不良気味だったため、今度はもう少し重い作品を読もうと決意しました。実は恥ずかしながら『海と毒薬』を読むのは初めて。状況や諦観、同調圧力に無自覚に流される日本人像は、白洲次郎‟プリンシプル”という言葉で表そうとした日本人像と重なる気がしました。

  勝手な想像と解釈ですが、敬虔なクリスチャンだった遠藤周作日本人と、そして日本人である自分がどこか許せない反面、それでも嫌いになり切れない葛藤を作品の中で昇華させようと試みていたような気がします。

 

 ……今回、読んだ本をざっくりリストアップして紹介するだけの予定でしたが、いざ書き始めると止まらない&終わらない

 ですので、今回のテーマは全2回に分けてお届けしようと思います。

 

 『2020年度 上半期の読書録 その②』のラインナップは……

 

7.ローランド・レイゼンビー『コービー・ブライアント  失う勇気』

8.アルベール・カミュ『ペスト』

9.NHK『100分de名著』テキスト 中条省平アルベール・カミュ ペスト』  

10.村上春樹『猫を棄てる』

11.アルベール・カミュ『異邦人』

12.高嶋哲夫『首都感染』

 

 間違っても‟その③”にまで延長しないように注意してまとめていこうと思います!