大澤 秋津 official blog

或る市民ランナーの内省録

The Sandwich Artist

 突如として秋らしくなりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか?

 先日、家人からの誕生日プレゼントの新しい財布にカード類のお引越しをしていた際、前の財布の奥から出てきたのは…...

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僕にとっては大切な記念品です。

 というわけで、今回は昨年10月末に惜しくも閉店となってしまった『サブウェイ宇都宮駅ビルパセオ店』について書こうと思います。ただ、僕自身気持ちの整理がまだ上手くついていないので、あまり感傷的な内容にならないように気をつけたいと思います。

 今回のブログを書くにあたりネットで調べたところ、『サブウェイ宇都宮駅ビルパセオ店』2012年6月13日オープンし、2019年10月31日に閉店とのことでした。そして僕はその約7年間を通してずっとお世話になっていた訳です。

 

 2012年に宇都宮校が開校し、新しい宿泊先にも慣れ始めてきた初秋の頃、「今日の夕飯は軽めがいいな。でも野菜はしっかり摂りたいな」と迷っている時に目に入ってきたのは鮮やかな黄色と緑のロゴ。サブウェイの存在は知っていたものの、‟注文のシステムがスタバ以上に初心者殺しっぽい”というイメージからずっと敬遠していたのですが、「俺はNY郊外のスーパーのスタバでもちゃんと(英語で)オーダーできた男だから多分大丈夫!」と自分に言い聞かせて入店しました。これが僕のサブウェイデビューの経緯です。

 確か初めての注文は『生ハムとマスカルポーネ『えびアボカド』だったと記憶しています。予想以上の美味しさに酔いしれていると妹からメールが。返信でサブウェイの美味しさについて触れると‟今更サブウェイデビューとは遅れてる”と呆れられ、悔しいので前述の二品について(無駄に全力で)文章力を発揮して詳細に描写すると、‟こっち(アメリカ)にはそんなメニューはない”とのことでした。

 

 この日以来、宇都宮駅のサブウェイは僕の食事の選択肢リストの上位にずっと君臨し続けたのですが、2017年の秋から市民ランナーとして走るようになってから利用の頻度がぐっと上がりました

 特に大会が近くなるとよく注文していたのが、ランナーズスペシャル”と勝手に命名したサンドイッチ。内容は、ターキーブレストのパン(ハニーオーツ)をトーストしていただき、野菜は全て増量&アクセント野菜も全部入れてもらい、塩&胡椒を軽く振って、オイル&ビネガーは別途に付けていただく、というかなりストイックなオーダー。授業後にホテルにチェックインして着替えてから、ジムのトレッドミルで走った後、シャワーを浴びてからサブウェイに行くのが僕の金曜日の行動パターンでした。

 

 ……ただ、いくら健康に良くても2年近くもほぼ同じものを食べていると流石に飽きてきます。そんなある日、店長さんの「インド系のお客様は、スパイスのお国柄か、いくつかのソースや調味料を組み合わせた予想外のオーダーをされるんですよ」というお話や、彼も実際にいろいろな組み合わせを試されていることに興味を示すと、「今度やってみましょうか?」と提案されました。

 そして翌週、僕の注文はランナーズスペシャル”ではなく、「予算に糸目はつけませんので、お好きなように作ってください」という店員泣かせの無茶振り。店長さんは嬉しそうな顔で「……そうですね」と暫し沈思黙考の後、究極のオリジナル・サンドイッチの制作に取り掛かりました。

 彼に作っていただいた数々の‟作品”を写真や記録に残しておかなかったことを後悔しています。でも、しっかりと記憶には刻まれています。ローストビーフとツナの組み合わせがコンビーフのような味わいに変わることや、チリソースとえびを組み合わせてエビチリを再現されたりと、サンドイッチのオプションをフル活用して繰り広げられる化学変化。そして作りながら「今回の組み合わせだとトマトは自己主張しすぎてしまうので抜きますね」や「今日はこのピーマンがスパイスの代わりになるんですよ」と丁寧に解説していただき、この制作過程の裏にある錬金術のような美味しさの方程式を知るのも楽しみの一つになりました。

 昨年、とちぎテレビ『カミナリのチャリ旅!』という番組内で、お笑い芸人コンビのカミナリのお二人と店長さんがオリジナル・サンドイッチの制作に挑戦するという企画が放送され、その中で店長さんは「僕は‟サンドイッチ・アーティスト”です」とおっしゃっていました。……まさに的を得た表現だと思います。

 

 昨年秋に閉店を知って以降、行ける日は極力通い詰めました。店長さんはアルバイトの方がいらっしゃっても「いや、彼は僕がやりましょう」直々に対応してくださり、僕は僕で「今日はローストチキンベースで」と、それ以外は全てお任せするというあの妙なやり取りは痺れるくらいに最高でした。

 手帳を見返したところ、僕が最後に訪れた日は去年の10月29日でした。その日、僕はいつもの‟お任せ”を注文し、お会計の際に郡山銘菓‟エキソンパイ”と福島の地酒を店長さんに贈り、感謝の気持ちを何とか伝えようとし、そして最後に彼と握手をしました。

 更新されたばかりのカードに最初の(そして最後の)スタンプを押していただいた際、「記念にでも持っておいてください」と店長さんは冗談交じりでおっしゃっていましたが、このカードはこれからも大切に持っていようと思います。

 

 店長さんからスタッフ・アルバイトの方に至るまで、『サブウェイ宇都宮駅ビルパセオ店』は、宇都宮校での僕のパフォーマンスを支えてくれた、間違いなく大きな原動力でした。この場を借りて改めて、どうもありがとうございました。そして、ごちそうさまでした。