大澤 秋津 official blog

或る市民ランナーの内省録

私大受験連戦の朝に

 都内のホテルに連泊して私大入試に連日挑んだ浪人生時代。計5~6校に及んだ受験日程も終盤に差し掛かり、流石に心身共に疲労がピークに。この頃になると「合格したい!」よりも「一刻も早くこんな生活を終えてしまいたい」という気持ちの方が日々強くなる一方。

 前日の試験の手応えもさっぱりないまま、慣れないベットから重い身体をなんとか起こして、その日の準備に取り掛かりながらふとTVをつけると、朝の番組でリハビリに取り組む桑田真澄投手の様子が紹介されていました。

 

桑田真澄 - Wikipedia

 

 Mattのお父さん”と紹介した方がわかりやすいかもしれません。でも、清原和博選手との‟KKコンビ”の活躍と甲子園でのPL学園の圧倒的な強さを小学生の頃リアルタイムで見ていた僕は、あれ程の大投手が選手生命をかけて黙々とリハビリに取り組む映像に、鈍器で殴られるような衝撃を受けました。

 最悪、もう投げられなくなってしまうかもしれないのに、それでも自身の復活を信じて、通常のリハビリに加えピアノを弾いたりとあらゆる可能性を冷静に探りながら挑戦する姿勢を見ているうちに、気がつくと泣いていました。

 レポーターの方が「現在、受験シーズン真っ只中ですが、そんな受験生へメッセージをお願いします」と切り出した際、「桑田投手は自身のことでこれだけ大変なのに、無神経過ぎるだろう?」と思いました。でも、彼はいつものように淡々と語り出したのです。

 話された内容はもう正確には覚えていません。確か‟不安もあるかもしれないけれど、これまでやってきた練習を信じて実力を出し切って欲しい”みたいな、ごく普通のメッセージだったと思います。この場合、重要なのは言葉の内容ではなく、それを誰が発したか、です。投手生命の存続をかけて必死に闘っている方が、見ず知らずの他者に対してもしっかりと配慮できることが、当時の僕には信じられませんでした。こういう大人になりたいと感じました。

 短いその特集が終わり、TVを消して僕は受験地へと向かいました。連戦で疲れていたし、自信も全然なかったし、不安も払拭できないままでしたが、それでも今日は桑田投手に応えよう試験終了の合図があるまでは、できることはすべてやる。そういう気持ちになっていました。