大澤 秋津 official blog

或る市民ランナーの内省録

卒業を迎える高校生の皆様へ

 高校生活の最後が予想だにしなかった1年となってしまったことへの悔しさや、不完全燃焼な気持ち、どこまでも自分本位であり続ける大人たちに対する怒り、不条理な世界と見通しの立たないこの先への不安……どこにぶつけていいかわからないままの想いは、いろいろあると思います。でも、それでも、僕はこの言葉をまずは贈りたい。

 

ご卒業おめでとうございます!

 

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約3年ぶりの新刊!待った甲斐がありました。

 先日、大好きな漫画よつばとあずまきよひこ著)の最新刊を読んだ後、作品の中で丁寧に掘り下げながら描写される日常に、以前は感じなかった距離感というか、どこか遠い世界を見ているかのような感じを覚えました。カバーの帯に記された‟普通という奇跡”というキャッチ・コピーを目にして、「あぁ、そうか。この作品の世界はコロナ禍ではないんだな」と我に返ったのです。

 

 卒業式前後に用いられる‟高校3年間”という表現にも、恐らく大きな違和感を感じていると思います。個人差はあると思いますが、‟高校2.5年間”だったり、もしかすると‟高校2.1年間”くらいの感覚かもしれません。

 僕は高校生の頃、どういう訳か週末に約22時間爆睡して約1日を喪失するという貴重(?)な経験をしました。それはまぁ一種の笑い話で片付けられますが、2020年という年は自分の人生の中から永遠に失われたような感じがしています。必死にやってきたはずなのに、あっという間の1年で妙に密度というか実感に乏しく、SF作品のようにタイム・リープしてまた同じように新年度を迎えようとしている自分。そんな錯覚に時々襲われます。

 でも、我々にとっての2020年は、我々なりになんとか活路を見出そうともがき続けたこの1年の密度は決して薄いものではなく、それは確かに生きられた1年です。多分、この特殊な時間を認識できるようになるのは、もう暫く後のことなのだと僕は思います。

 だから、この1年は決して無駄なものではなかったし、思い通りにはいかなかったけれども、後から自分で振り返った時に自分なりの意味を見出せる時間でもある、ということを頭の片隅に置いて、これからの新生活への一歩を踏み出してください。

 

 

 先日、某100均店内を歩いていると、控えめに言ってもあまり品位が感じられないピンク色の髪の若い女性が通路を塞いでいた品出し用のカートにぶつかり、大きな音を立てて床一面に崩れた商品に一瞥もくれず、振り返りもせずにそのまま歩き去りました。彼女の直後をたまたま歩いていた別の女性が声をかけたものの、自分が荷物を倒したという周囲の誤解の視線に晒されながら、悲しそうな顔で必死に拾い始めました。

 その光景を目にしていた僕には怒りしかなく、とてもじゃないけどここで記すのも憚られるような罵倒の言葉を、あとほんの少しのところで叫んでいるところでした。でも、理性とか良心とかそういった類のものとはまた違う何かが僕の内で作用し、僕も散らばった商品を拾うべくその場に駆け寄りました。

 「ありがとうございます」との言葉に対して、その時僕の口から出たのは今でも信じられないようなものでした。「いいえ。それに(荷物を)倒したのはあなたではないのですから。お気になさらずに」

 僕よりも少し先輩と見受けられたその女性は一瞬はっとした後に、「そうですよね。そうですよね」と僕に同意とかいうレベルでない、もう少し深い了解を必死に求めていました。「僕は一部始終、全部見ていました。倒したのはあなたじゃない。だから、何も問題ないですよ」そう加えて、残りの商品を全部戻して笑顔で別れました。

 ......どうしてあの時、ああいう対応ができたのかはわかりません。今度同じようなケースに遭ったら、次は罵詈雑言を吐いているかもしれません。ただ、所謂‟第3波”の渦中にあって僕は医療現場の人たちをはじめとする匿名の人たちのことをずっと考えていて、できることなら自分もその末席くらいには名を連ねたいという気持ちで冬期講習に臨んでいました。

 当時の手帳には、「あいつらなんかじゃない。俺たちだ。俺たちこそが、この世界を動かしているんだ」と書きなぐってありました。

 

 カートの荷物をぶちまけ、それに気づかず、もしくは知っていながらその場を平気で離れるどこまでも自分本位な人間は一定数いるのも事実ですが、忘れていけないのは周囲の誤解に晒されながらも荷物を拾おうとする人間も確かにいるということです。そして、この世界を本当に支え動かしてきたのは、今でも動かしているのはそういう名の知れぬ人たちです

 

 ……今回はどうも上手く話をまとめられそうにもないので、そろそろ筆を置こうと思いますが、最後に改めてこれだけはお伝えしたいのです。

 御卒業おめでとう。そして、これからも俺たちの手でこの世界をしっかり動かしていこう!